カテゴリー「櫻の樹の下で」の5件の記事

櫻の樹の下で―不良品―

「何だか、変な事になった・・・。」と、気づいた時には遅かった。

島津はオレの手を握ったままオレを宥めては褒めを延々繰り返し、それでも「OK」しないオレに業を煮やしその矛先をボスと榊に向け、泣き落とし、いや半脅迫に掛かったのだ。

「私は、OKが出るまで帰りません。こんな事もあろうかとちゃんと、お泊りセットも用意してきました。」足元のボストンバッグを自慢げに指差す。
「・・・マジっすか。」
流石に余りの島津の執念にも似たしつこさに観念した榊は
「協力してやれよ。今はメンテナンスに訪れている4号機2体のみだし。こっちはボスと研究生がいれば大丈夫だから。」

それに続いてボスも
「そうですよ。武藤教授。警察に捜査協力なんて経験は、今後の研究の役に立つかもしれませんよ。」ゲンナリしてそう言う。
どんな役に立つんだよ?と、ツッコミ入れたいが、ボスも榊も早く、島津を追い帰したい一心でボケてはくれないだろう。

その後、榊がオレにこっそりと
「それに、美人の高校生が『武藤教授を』とご指名なんだろ。」どうやら榊は、事の成り行きをすっかり楽しんでいるようだ。
「ご指名て・・・。オレは、ホストじゃないぞ。」怒るオレに
「見た目はそのまんまだが。いいね~。モテる男は。」と、嫌味っぽく榊は言う。が、
いや・・・榊。その言葉、毎週末毎、女をとっかえひっかえのおまえにそっくりそのまま返したいよ。

「武藤教授。協力して頂けますよね。」島津に念を押すように問いかけられた。
もう既に、ボスも榊も島津もオレの「OK」以外の言葉は聞き入れてくれそうにない状況だ。
三人に追い詰められた可哀想なオレは「はい。」と返事するしかなかった・・・。

二日後―。
オレは警視庁特別捜査班の狭い応接室の硬いソファーに腰掛けていた。
目の前には、捜査班の島津班長と時任少年がいる。
「今回の件お引き受け頂いて、本当に有難うございます。」
島津班長はニコニコ顔で続ける。
「時任くんと教授が協力してくれるなんて、もう既に事件解決したと言っても過言ではありませんよ。」

オレは、言葉も無く苦笑する。やれやれ・・・。
ふと、目線を島津から時任少年に向けると、彼は初めて逢ったときと同じきつい瞳でオレを見つめていた。
(・・・何か睨まれてるみたいだな。)そして、考える。
あ?オレはもしかして、嫌われているのか?
え!知らない間に恨まれてたとか?
なら何で嫌ってるオレとなら捜査するなんて言ったんだ?

いや、きっと、彼は本当は捜査に協力するのが嫌で、オレなら絶対「NO」と言うだろうと初めて逢った時そう踏んでたのかもな。それで、口から出任せオレの名を島津に告げたんだな。
そう勝手に結論付けた。反面、ガッカリする。
そりゃあ、ガッカリもするさ。オレはあれからずっと、彼の記憶を繰り返し思い出していたんだから。
けど彼の方は、オレのことなんて、頭の隅にもなかったろうな。

彼の瞳を見つめ返してそう思う。
小さいテーブルを挟んで見る時任少年の瞳は綺麗に澄んでいて、睨まれても嫌な感じはしない。

時折、窓に掛かったカーテンの隙間から入る光でその瞳が反射した時、黒い宝石みたいに輝いて見える。むしろ、ずっとこのまま見つめていて欲しいくらいだ。

「どうしたんです?二人とも、さっきから無言で見詰め合って・・・。何かこの場が、お見合いの席にでもなった感じがしますね~。」
若い者はいいです。羨ましい。と、島津は冗談まじりに笑って言った。
それに釣られてオレも笑ったが、時任少年は照れてしまったのか首まで赤くなって、俯いてしまった。

ああ。残念。もっと、見ていたかったのに・・・。
多分、オレは榊の言うように時任少年に興味があるのだろう。
今まで、何にも興味を持たなかったこのオレは、時任少年のことをもっと、知りたい、もっと、近くに感じていたいと素直にそう思っている。
これは、人間でいうなら「好き」とか「恋」や「愛」って、感情だろうか?

オレの武藤(基)が、妻の美紗子にずっと抱いていた感情。

オレ(5号)は、その感情を美紗子に持てずに彼女に「武藤じゃない。」と言われた。それははっきり、武藤5号は不良品だと告げられたようなものだった。
それから今まで、オレ(5号)の何が不良品なのか、理解出来ずにいた。
武藤(基)と何から何まで瓜二つのオレ(5号)。皆が皆、オレを見て成功だと言ったのに、彼女だけは「違う」と言った。

でも今なら解る。多分・・・。
オレには、「愛」が無かった。心が無かった。
彼女の目には、武藤5号は、頭の中でだけ理解して、記憶の中の言葉を繰り返すだけのロボットに映っただろう。
もっと、早く気が付いていたら・・・。彼女がせめて、逝く前に・・・。

そしたら、彼女にもっと生きた言葉をあげれたか?
「愛していたよ。」と、心からそう言えたか?
多分、言えなかったろうな。記憶の中では理解してても、心が付いていかなかったろう。
オレ(5号)は、武藤(基)が彼女のために作ったクローンだ。
でも、武藤 将平と同じ感情は持てない。

なら、オレの持つ時任少年に対する感情は、何処からくるのだろう?
武藤 将平とそっくり同じ容姿、肉体、記憶を持ちながら美紗子に対する感情を、時任少年に持つなんて・・・。

「やっぱ、オレは不良品だな。」
俯いたままの時任少年から、目を離すことも出来ずに心の中でそう呟いていた。

―つづく―

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イメージ・ラフ絵(櫻の樹の下で)

Img566

↑武藤5号

自分が描く男前は、何故か何時もこんな感じになる。

Img567

↑時任少年

彼は、こんなもんかな?

Img569

↑お手て繋いで照れる時任少年。

イミはない。

武藤5号身長188㎝ 年齢二十歳で誕生して9年目

時任少年身長175㎝ 年齢17歳高校2年生

身長は適当です。あまり考えなし。


ここから、HP情報

只今、IE7.0でご覧になられてる方は、総て画像&文字がセンター寄りになっているかと思われます。が、暫くは、崩れたまま放置することになります。これは、ただ、面倒だからです。漫画はそのまま読めるかとは思いますので、悪しからずです。

FIRE FOXまたはOPERAでは、前のまま閲覧できます。

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櫻の樹の下で―思考回路一時停止―

資料室から直行、オレは「第一研究課」の課長室へ駆け込んだ。
「何処行ってたんですか。武藤教授~。」
第一研究課のボス。嶋田 綾子(しまだ あやこ)はオレを見るなり慌てて駆け寄ってきた。
彼女は、オレと榊がまだ基の頃。この研究所へオレ達の助手として大学院時代に引き抜かれてきた才女だ。あれから30年。若かった彼女も、もう直ぐ定年で・・・オレ達の唯一の上司(まあ、今では母親代わりみたいなもの)として、ここに勤務している。

「その教授てのはやめてくれ。何だ?また、始末書か?」
「それもありますが。あ。そういえば、先月の始末書、まだ提出して頂いてませんが。榊教授には、先程、全部提出して頂きましたよ。」と、あっさり嫌味交じりにそう言われた。
「・・・今週中に纏めて提出するよ。」
はあ~、ため息が出る。
クローンに不具合が出る度、俺と榊には大量の始末書類が回ってくる。目を通すだけで、一日が潰されるくらいの・・・。

だから、始末書と聞くだけで俺は憂鬱になる。
大体、この間まで出回っていた3号機は、おれ達の基が作ったものだ。オレ達(5号)に責任は無いだろうと思うのだが・・・。

実際、3号機は酷かった。よく13年も持ったものだと思う。
武藤3号は、生まれて3年程経過した時に、脳に違和感を覚えた。それは、朝から晩まで一日中、大きなミミズが脳内を這い回って刺激するかのような不快な感触で、激しい痛みを伴った。
最初は抑えられていた鎮痛剤も徐々に効かなくなり、最後の3年はモルヒネに頼った。が、それも効かなくなった武藤3号は苦痛の余り、ある日、何気に自分の頭を銃で打ち抜いていた。

その場に居合わせた榊3号は、その砕けた脳の記憶装置を修理し武藤3号の細胞で武藤4号を再生した。
まあ、榊3号も榊4号が誕生したと同時に自己崩壊(自殺)したが―――。

しかし、よく50年そこらでこれだけ技術的に進歩出来たと感心する。

1号は、カプセルから出た途端、ヒトの容にもならず見るも無残に跡形も無く崩れ去った。
2号は、武藤が5年半。榊が6年。辛うじてヒトの容を保った。
3号は2体とも13年持った。だが、脳と身体の連結が巧く行かず上記の理由で自己崩壊(自殺)した。
4号は、今世間に数体出回っている。が、これも3号と同様。脳と身体のバランスが取れず、自己崩壊している。
(因みに、3号までは基が作り4号は3号が。5号は4号が作った。)

「それより教授。お客様ですよ。」
「え?オレに?」
ボスに釣られて顔を部屋の隅のソファーに向けると、50歳位の紳士顔した男が腰掛けていた。
男はゆっくり立ち上がり、礼儀正しくオレにお辞儀をして

「警視庁特別捜査班班長の島津 一(しまづ はじめ)です。」そう言った。

「警視庁・・・。」聞いて瞬間、全身にどっと冷や汗が流れる。
まさか、心配していた事が事実となったか?
「教授は、時任 嵐くんをご存知ですね?」鋭い目をオレに向ける。
やはり!!
特別捜査班ってことは、特別の捜査班だろうから、オレの周辺から国家機密の何かが漏れたんだ。そうか。そしてオレは、このまま、廃棄処分されるのか・・・。

「・・・ご存知というか・・・それ程、ご存知でもないですが。」
情けないことに緊張と恐怖のあまり声が、上擦ってしまった。
島津の警官特有の鋭い目は、オレの一挙一動を観察するかのように射続けている。
オレの心臓は、口から飛び出しそうな勢いでバクバクいってる。
ボスはそんなオレの様子を敏感に感じ取って、オレを庇うように島津の前に立ち塞がった。
「武藤教授は警察のご厄介になるような生活をしておりませんが。武藤教授に何か不備がございましたら然るべき手続きを取って、再度出直して頂きたいのですが。」
ボスの言葉に島津は、事務的にあっさり答えた。
「ああ。人を観察するのは、どうもクセらしくて。ですが、教授に疚しい所がなければ見る位はいいじゃないですか。」

ボスは、その言葉が癇に障ったらしく
「そうですか。まあ、武藤教授は端整な顔立ちのうえに体躯もいい。洗練された美男ですからね。「失礼」の言葉も無く、島津さんが嘗め回すように教授に見惚れるのもよ~く解りますよ。」
ボス。あんたそれ警官相手にケンカ売ってるよ。
「あっ!いや、恐縮です。失礼しました。」
言われた島津は赤面して頭を掻き、慌てて何度も頭をさげた。

その様子から、オレの心配は無用だったのだと理解できた。ボスも島津の「失礼しました。」を聞いて機嫌を治したらしい。

「教授。取りあえず、座ったら・・・。あ、島津さんも。今、お茶をお持ちしますから。」
「いや、お構いなく。出来れば、教授と二人で話したいことがあるのですが。」島津は、にこりとボスに微笑んで、ソファーに腰掛けた。
ボスは、まだ半分放心状態のオレを島津の前席に座らせて、「では、私は隣室にいますので、御用がおありでしたらお呼びください。」そう言って部屋を出て行った。

それを待ち受けていたかのように島津は口を開いた。
「時任くんは、あなたが協力してくれるならとそう言うもので。」

(時任・・・。ああ、あの少年か・・・。)ぼんやり考える。まだ、緊張が解けず巧く頭が回転してないらしい。
「はあ・・・。協力って・・・何を?」島津は、間の抜けた返事をしたオレに構いもせず
「武藤教授は、夜桜連続行方不明事件をご存知でしょうか?TVのニュースでも各局連日特集を組んで報道していますが。」
「ああ。それなら・・・」研究一筋のオレでも知っている。
何年か前から、夜桜見物に出かけた男が次々と行方不明になっているという怪事件だ。
一緒にそこに居た人物が、目を離した数秒の間に忽然と消えていたという・・・。
UFO説とか異次元説とか、実しやかに噂され今世間で最も話題になっている事件なのだ。

「先週も、某番組の若手人気キャスターがこの事件を取材中に行方不明になりました。」眉間に皺を寄せて一大事とばかり島津は言う。が、
「はあ・・・。」解らない。何で、オレにそんな話しをするのか。
そもそも、それがどう時任少年と関係があるのか。

続けて島津は、意外な人物を口にした。
「教授は、笹山 志保(ささやま しほ)師を憶えてらっしゃいますか。」
「ああ、俺の基が――。師は、一流の超常能力者で、脳の実験研究に何度か協力して貰いました。」
もう、40年前の話になるな。
その頃、作った2号機に超常能力の傾向が強く出たため武藤(基)は脳に興味を持ったのだ。師を紹介してくれたのは、政府だった。

その時、師の家系は、代々その能力を超心理学界で高く評価され当時警察が、解決不可能とされた事件などを次々解決していると聞かされた。政府お墨付きの超常能力者だとも。

「時任 嵐くんは、師の実妹のお孫さんにあたります。彼にも師と同じ能力があるとのことで、日本警察は政府の許可を得て、先日彼に特別捜査官として事件解決への協力を求めたのですが。」
ああ、そう。孫か。なら、時任少年がオレを知っていたとしても不思議ではない。師は歳は食ってたけれど可愛い女だった。感度も良かったしな・・・。
オレがお盛んな昔を思い出している間にも島津は、話を続ける。

「時任くんが・・・。武藤教授が――あなたが一緒なら、協力するとそう言ってまして。だから。
だから、あなたも捜査に協力してください。お願いします!!」
島津に思い切り両手を握り締められた。
「はあ?」あまりの展開にオレの脳は一時停止し、身体は両手を握られたまま暫し硬直していた。

―つづく―

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櫻の樹の下で―ヒトゲノム再生研究所―

「憶えてる?私のこと―――。ねぇ、将平さん。」

彼女は、出逢った頃からよく俺にそう訊ねてきた。
「憶えてるよ。美紗子。ずっと一緒にいるって約束した。」
彼女が期待するであろう言葉を俺が口にする度
何時も、彼女は淋しく微笑んだ。

「いいのよ。もう、無理しなくても。あなたは、彼じゃないんだから。」
息を引き取る前に彼女は、俺に言った。
「あなたは、私の将平さんじゃないの。だから―――。」

最期の言葉は、俺の耳まで届かなかった。


昨夜は、時任少年のことで頭をフル回転させていた。
彼の唇の動きに会わせて彼の声が頭の中を過ぎっていく。
記憶には自信がある。そのおかげで俺はこうして今生きている。
なのに、彼の記憶は頭の何処にも見当たらない。

一目会えば忘れるはずが無いであろう特徴のある瞳。
ふっくらした桜色の可愛い唇。
彼の残像を脳裏に思い浮かべながら俺はいつの間にか眠っていたようだ。
そのせいか。
久しぶりに、彼女の夢を見た。彼女が死んでもう5年になる。
その間、夢という夢は見なかったのに・・・。

その日、俺はヒトゲノム再生研究所の資料室にいた。この研究所は、日本政府唯一公認のヒトクローン研究所だ。
日本の人口は、近年激しく減少している。これは、日本に限った事ではなく世界的に男女間の生殖能力が著しく低下し始めた為だ。地球が抱える異常気象問題と関係しているのかもしれない。
このままでは、日本に未来は無い。いや、地球全体に・・・。

そのため、危機を感じた政府は、今から50年ほど前にそれまで禁止していたヒトのクローン再生に着手した。そのわずか10年後、クローン再生を許可する。見切り発車もいいところだ(この小説のように)。

ヒトクローンは、ヒトの細胞から培養カプセルの中でヒトの容に形成され、記憶を埋め込まれ十月十日で成人となって誕生する。クローンというより、人造人間だな。
だが、政府のしでかす事は、何時の時代も間が抜けている。
クローン一体を作るのに、人間一生分の費用が掛かるのだ。この不景気なご時世にそれだけの金を費やす者なんて、いない。
おまけに、認可が下りるまで、あらゆる項目をパスしなければならない。無事パスしたとしても、クローンの所有権は、政府に在る。

そんな理由で、今現在日本に生息するヒトクローンは、数えるほどしかいない。そのどれもが不良品で。何やってんだ。日本政府!?まあその内、このクローン計画も白紙になるだろうな。

俺はその研究所の資料室で過去50年、自分に拘った総てのデータをPC画面で検索する。

やはり、少年に関係するであろうデータは出てこない。
「やっぱりな・・・。」ため息混じりに呟いた。その瞬間、部屋にコーヒーの匂いが漂った。
「おごりだ。飲めよ。随分とご熱心だな。」
何時の間にか、榊が俺の後ろでPC画面を覗き込んでいた。

俺は、ビックリすると同時に苦笑する。
人の気配にも気付かない程、熱中してたのだ。
榊が敵なら俺は今頃、死体だな。
「死体・・・。」そういえば、時任少年もそんなこと言ってたな。

  ―ほら、よく櫻の下には死体が埋まってるって言うだろ?
  あれ、ホントに埋まってると思う?―

俺の思考回路は、時任少年に飛んでいく。
・・・どうも、気が付けば、俺は昨夜から彼のことを考えているようだ。この俺がだ・・・。
「どうした?武藤。おまえ今日は、隙ありすぎだぞ。」
そんな俺を珍しいものでも見るかのように榊 真哉(さかき しんや)は言った。

「何を探しているのか知らないが、PCで検索するよりおまえの頭の中で検索した方が早いだろう。」
「まあな。」
榊は朝から、部署を出たきりの俺が気になって覗きにきたのだろう。
「で?探し物は見つかったのか?」

「いや・・・。多分、俺の勘違いだ。」椅子の背もたれに背を預けて俺は素っ気無くそう言った。
「勘違い?おまえが、か。」口の端に薄い笑いを浮かべて榊は俺を見た。
俺はゆっくりPC画面を閉じて
「そんな事もあるさ。」と、席を立つ。
榊は、その俺の腕を捕まえ「言えよ。何を探してた。」
有無を言わせない鋭い目が光ってる。

「・・・榊。おまえがもし見知らぬ、その日初めて出会った相手にフルネームで名前を呼ばれたらどうする。」
「・・・ビックリするな。それは、・・・事実か。」
「昨日の出来事だ。それも、高校生くらいのガキにだ。」

一拍置いて榊は、言う。
「・・・おまえのファンじゃないのか?一目会ったその時からってヤツで。こっそり、おまえの事を調べたんだ。」
「馬鹿か。どうやって?」
「ふん・・・。」榊は、眉を顰めた。
それは、有り得ない。

オレと榊は、クローンだ。成人として生まれてまだ9年。だが、頭の中には、50年分の知識が詰まっている。
そう、オレ達の基は、50年前この研究所の研究員だった。
オレ達の基、武藤 将平と榊 真哉は、自分の細胞を実験台にしたのだ。何度も失敗を重ね二人が死んで20年後、完成したのが、今ここに居る自分達だ。

だから、オレ達に名は無い。戸籍も無い。「武藤5号」と「榊5号」。それが、オレ達の本当の名前。
オレ達は、二人に代わって(過去50年分の頭の中のPCよりも高性能の記録とともに)今この研究所に養われている。

なのにどうしてあの少年は、俺の本名(基の名前)を知りうることができたのか・・・。
研究は、国家機密でなければならない。
もし、これが原因で俺の周辺から何かが少しでも外に漏れでもしたら。

俺は、即、国外追放となるだろう。
「・・・それも生きて追放されるかどうか・・・。」
榊は、それを聞いて笑った。
「おまえは、殺しても死なない。オレがまた再生してやる。だから大丈夫だ。」

「そのガキは美人か?」
榊の問いにふと首を傾げながら
「美人・・・男にも美人て言葉を使うのなら美人かな。」
榊は、へぇ~。と笑って
「男か。おまえ男OKだったっけ?」
「興味ない。」俺は即答する。その答えに、榊が即答した。
「興味ないのは、男も女もだろ。」

「そうだな。」反論はしない。俺は総ての事に興味が無い。
榊の言葉を軽く受け流す。
「でも、その美人のボーヤには興味あるんだろ。」
榊は、コーヒーを一口飲んで笑ってこう言った。
「おまえも俺と同じ人間だったんだなと、安心したよ。」

「・・・クローンの出来損ないだけどな。」そう言った俺の顔は
多分、今酷く歪んで笑ってるだろう。
「クローンだって、立派な人間さ。―――おまえも俺も。」
榊は、その顔を見て見ぬ振りして、苦い顔をしてコーヒーを飲み干した。

「・・・ふん。下らん話しは、お終いだ。
ああ、そうだ。武藤―――ボスがおまえを探してたぞ。」
「それを早く言え!」
俺は資料室を飛び出した。
一人残された榊は、
「慌しいヤツだ。俺のおごりのコーヒーに手もつけないで・・・。」

相変わらず、苦い顔でそう呟いた。

つづく

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櫻の樹の下で―出会い―

20XX年。
春よりも紅い櫻。

近年、世界規模で異常気象が続くのが当たり前になっている。
これも、その一つだろう。
もう12月。メリークリスマスも近いってのに、櫻が日本の至る所で満開だとは・・・。
どこかのTV局のニュースで、夜桜見物を楽しむ人たちも増えてきたとか言っていた。
もう、これは日本の常識。櫻といえば春だけの名物とはいえないのかもしれない。
大体、真夏にだって雪が舞ってたりする年があるのだから。
ただ、春の櫻と違ってるのは、少し花弁の色が紅いってことか。

とある公園の櫻並木。
彼が、今見ている櫻は、今の時期、その辺の公園に何処にでも咲いているソメイヨシノだ。
こうして櫻をマジマジと見るという行為そのものが、もしかして彼には初めての経験かもしれない。

櫻・・・。最後に見たのは、大学の友人達との夜桜見物で・・・。
いや、その時も、見たとは言い難い。
大抵が、「夜桜見物イコール宴会」だからだ。その時も、友人達とはしゃいで飲んだくれて大騒ぎしてた。
櫻の下で・・・。目の端に、櫻の花びらが舞っていた。
そういう記憶しか残っていない。

「余り見入ってると魂吸い取られるぞ。」

振り向くと櫻の花びら舞い散る中。一人の少年が、立っていた。

「ほら、よく櫻の下には死体が埋まってるって言うだろ?
あれ、ホントに埋まってると思う?」
世間話をするかのように少年は、俺の横に並んで問いかけてきた。

「さあ?そんな事、初めて聞いたな。」
何だ?こいつ・・・変なヤツだな。
初対面の見知らぬ人物に向かって、「死体」なんて言葉をまるで挨拶でもするかのように言ってのけたのだ。

見た目は、高校生くらいか。
細身で背が高くて、この間、一瞬TVで観た何とかって若手俳優に似てるかな?
黒い髪とまだあどけなさの残る顔に少しキツメの瞳が印象的だ。

「ねえ、あんた
モデルか俳優?それともホスト?」少年は、俺にそう笑いかけて聞いてくる。が、特徴のある瞳は決して笑っていない。

「・・・ただの一般人だよ。」
素っ気無くオレは答えた。

「ふ~ん。
いかにもって感じだからさ。女にモテそうな、さ。」その言葉が、何故か棘のあるように聞こえる。

「・・・」
いかにも・・・確かに、そういうことはよく言われる。ただ立っているだけで、周りの視線を感じる事も多々ある。が、(・・・くだらん。)

俺は、それには答えず少年に背を向けて歩き出した。
その後を、少年は追いかけてくる。

「あんたさ~。背高いよな。俺も高い方だけどさ。」
「歩くの速いのな。それって、やっぱ足の長さが関係してんのかな。」
「なあ、聞いてる?人の話?」

うぜぇ・・・。何だ?こいつはっ!!
「お喋りは好きじゃない。」冷たく言って追い払ったつもりが、
「あ。そうなの。同じだね。うん。オレも余り好きじゃないかも。」
そう言ってまだ、俺の後を追うように付いてくる。

「―――何で付いて来る。」
「え?何でって。オレんちこっちだもん。」
俺は、歩幅を緩めず顔だけ少年の方を振り返った。相変わらず大きなキツイ瞳を俺に向けてる。が、口元は、少し歪めて笑ってる。
明らかにウソだ。仕事上、そういう事は解る。
だが何だって、オレの後を付いて来るんだ?

公園を出てパーキングまで来たとき、少年は言った。

「オレ、時任 嵐(ときとう あらし)。あんたは?名前。」

「・・・山田 太郎・・・」

「ウソだ。」即ちょっと、口を尖らせて可愛い顔でそう言う。

ウソだよ。
ホント、変なヤツだな。見も知らぬ男の名前なんて聞いてどうするよ。それも、十も年上の・・・。聞くならその辺の若いおねぇちゃんの名前でも聞けばいいだろ。
・・・と、ああ、そうか。今流行の「MO☆HO」くんかもな。
ひと昔前と違って、現在じゃ同性同士の恋愛なんてフツウだし・・・。何年か前には、法律で結婚も可能になったしな。
とはいうものの、やはりまだ同性同士のカップルには、世間の風は冷たいが。

「悪いが時任くんとやら、俺は君に名前を名乗る義務は無い。おまけにゲイでもな。」きっぱり、そう言い放った。
時任少年は、大きな目をパチクリさせてる。あのキツイと思った瞳が、一瞬可愛いと思う瞳に変わった。

「まあ、そりゃそうだろうけど。警戒してんの?俺何もしないよ。ホモでもないし。ただ、あんたの名前知りたいな~と思っただけで。」
時任少年が言い終わる間もなく
「じゃ。」
俺は、車に乗り込んでドアを閉め発車した。少年の横をすれ違う瞬間

「バイバイ。――――さん。」

え!
今、俺の――。

急ブレーキ。
慌ててドアを開けて振り返ったが、少年の姿はもうそこには無かった。

何で?空耳だったか?
それは、そうだろう。さっき初めて出逢ったあの少年が、俺の名を知ってるわけが無い。
それも、フルネームで・・・。

「武藤 将平(むとう しょうへい)さん。」と―――。

まるで、狐・・・いや、櫻に化かされたのかと思った。
それが、彼。時任 嵐との出会いだった。

―つづく―

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